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20211/2

2020映画のおはなし。

 

新年となりました、今年もよろしくお願いいたします。
昨年は悲しい出来事が多い年でした。私にとってショーン・コネリーの死は本当に大きいもので、今でも完全に気持ちを切り替えることが出来ずにいます。
訃報の後、奇しくも追悼放送となってしまった『レッド・オクトーバーを追え』をとても複雑な気持ちで鑑賞しました。例えばプルースト効果、或いはエピソード記憶、「人間の記憶は何かに触れることで鮮明に蘇る」…映画はふと漂う懐かしい香りのように心に刻まれる。遠くなった記憶を呼び覚まし、色褪せることのない感動を紡ぎ出してくれる素晴らしい芸術。私は彼の残した作品を拠り所として、思い出として、糧として、この先も大切に鑑賞していきたいと思います。

 

さて、湿っぽい話でスタートしてしまいましたが、2020年のまとめです。
前年2019年は年間視聴本数12本と非常に少なかったので、今年はもう少し観たいなと思い鑑賞した本数は最終的に約30本。数えていない年も多いので正確にはわかりませんが、私にしてはまぁ平均的な本数でしょうか。コロナ禍ということもあり殆どが自宅での鑑賞でした。また1年の後半はなかなか鑑賞する時間が取れませんで、夏前迄にみた作品が殆どです。観ておきたいのに積んでいる作品も多いのでお正月中に少しずつ消化したいと思っています。
そんな今年のベスト1、あとはゆるゆる一部作品について感想を。

 

 

『Fukushima50』2020年公開/日本
2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の発生により巨大津波に襲われた福島第一原子力発電所。浸水により全電力を喪失し、冷却機能を失った発電所内に留まり対応業務に従事した約50名の作業員・通称「フクシマ50」を描いた作品。門田隆将著のノンフィクション書籍『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』が原作。

この作品の制作・公開に賛否あっただろうことは容易に想像がつく。
実際に被災された方々の辛い記憶が僅か9年程度で薄れる筈もないのに、映画化?興行?エンターテイメントにするとは、ふざけるな!と言う気持ちになるのは当然で、映像化自体受け入れられない、公開されたところで恐ろしくて観ることができないという声も多くあったのではないかと思う。それでも賛否ある作品と理解した上で、私は今年のベスト1に『Fukushima50』を選ぶ。

序盤の巨大津波に福島第一原子力発電所が飲み込まれるシーンは凄まじいものだった。
発電所の面々は警報を聞いているにも関わらず「ここは心配ないと思いますが…」「急がなくても大丈夫だよ」と会話をかわす。台詞であり演技だと分かっていても、一言一言が妙にリアルで、その危機感のなさが人間らしく、恐ろしい。やがて遠目に迫り来る巨大な壁のようなものが見える。「なんだ、あれ…」と呟き、やがて得体の知れない巨大な壁の正体が”津波”だと気づくが、直後には大量の海水が押し寄せてくる。このシーンを何度も映像を止めながら鑑賞した。映像作品だと頭では理解していても心が追いつかなかった。心拍数が上がっているのが分かり、息苦しくなる始末。何度も席を立って気持ちを落ち着ける為に休憩を入れ、息を飲むように観た。(コロナ禍でおうち映画館で観ていた、劇場でなくてよかった。)あの日何が起きていたかを後からニュース映像で知った私にとって、所詮「遠くの現実」だったことを思い知らされるような映像だった。創り物でこれか、そんな気持ちになった。本作は全体で122分の作品だそうだが、私は鑑賞を終えるのに倍近い時間が掛かったのだと思う。

福島第一原子力発電所は浸水し、全電力を喪失、原発は冷却機能を失いメルトダウンの危機に陥る。
命がけで発電所内に留まり対応業務に従事するプラントエンジニア達、部下からの信頼も厚い吉田所長に世界の渡辺謙、そして現場指揮者の伊崎に佐藤浩市。命がけで対応に臨むプラントエンジニアには吉岡秀隆、緒形直人、火野正平、石井正則など。
特にベテランエンジニアの大森(火野正平)は、目立った役どころではないのだが重要な役割を担っていたと思う。所内はもはや熱と被爆線量との戦い、若い者には行かせられないと危険を承知で現地へと赴くシーンは素晴らしく、すっかりファンになってしまった。熟練プラントエンジニアの決意とプライドが現れたいい演技だった。
一見頼りない風貌の前田(吉岡秀隆)や本田(石井正則 元アリtoキリギリス)も良い味を出していた。作中でも描写があるが、彼らにとって原子力発電所は1機ずつ特徴や性格も違う、長年面倒を見てきた子供のようなもの。人々の生活を助けてきたのに暴走を始めてしまった、その暴走を止めてやらなきゃと考えている。彼らは「今日当直だっただけの会社員」で、お給料を貰って働き、家には家族もいる普通の人達だ。なのにある日突然、このままだと大変なことになります、なんとか出来るのは貴方達だけです、という状況に追い込まれてしまう。全員がぎりぎりの状態という難しい話。目立つのは上と現場との板挟みになる吉田所長(渡辺謙)と部下を危険な現場に送り出さなくてはならない伊崎(佐藤浩市)かもしれないが、作品が素晴らしいのはプラントエンジニアを演じた役者さん達にしっかり土台が支えられていたからこそだ。
余談だが突然全員が勇敢になれるはずもない。自分には出来ないと避難する所員もきちんと描かれていたりする。佐野史郎演じる総理大臣はヒステリックに怒り感情を隠すことがない。一周回ってコミカルなキャラクターにすら見えてくるが、状況が分からないなりに思い悩む人間性もきちんと垣間見える。現実的な原発対応への評価や結果はともかく、「未曾有の事態に多くの人が、その人なりに懸命に動いた事実」がきちんと描かれている点を私は評価したい。この尺で描ける範疇で、人の強さも弱さも描写は丁寧である。
無理に観る必要はない、けれど私のようなあの日あの場にいなかった人々にこそ必要な作品だと思う。
美化したり英雄視したりしなくていい、ただ現実に起きたことの一端を知るためにフラットな気持ちで一度鑑賞してみて欲しい。

 

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『グリーン・ブック』2018年/アメリカ

1962年のアメリカが舞台。
イタリア系の白人トニー・ヴァレロンガは、裕福な黒人ジャズピアニスト”ドクター”シャーリーに運転手兼ボディガードとして雇われる。シャーリーは差別が色濃いアメリカ南部をコンサートツアーで回るというのだ。インテリなシャーリーと豪快だが無学なトニー、対照的なふたりは衝突を繰り返しつつ、黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りに旅をすることになる。

敢えて観ずに積んでおいた作品だったのだけど凄く良かった。一緒にケンタ食べるシーンは特に素晴らしく、何気ない描写、何気ない会話が2人の性格を浮き彫りにする。人種差別という問題も絡んでくる作品ではあるけど、これはもっとシンプルな友情物語なんじゃないかな。主人公トニーはがさつで無学ながらも「俺は俺、細けぇことは良いんだよ」なノリが意外と心地いい。一方ドクター・シャーリーは気品も学もあるが堅物で臆病。トニーに言葉を教え手紙の書き方を教え礼儀や気品を説くのだけど、逆にトニーから教わること、気づかされることも沢山あったりして。道中紆余曲折あるし気まずくもなるけれど、何気ないけれど幸せなエンディングを迎えるあたりもすごく良いなと思った。

 

『ヴィクトリア女王 最期の秘密』/2017年イギリス・アメリカ合作

2010年に見つかったといわれるアブドゥル本人の日記より、ほぼ史実に基づいて映画化。
1887年、ヴィクトリア女王は在位50周年を迎えた。記念硬貨を献上する役目に選ばれたインド人のアブドゥルだったが、ひょんなことから女王に気に入られ、やがて「ムンシ(師)」として重用されるようになっていく。

女王という重責を担う孤独な老女と、その退屈な日常を変えてくれるイケメン男性の登場。
…みたいな視点で見るとなんともいえない気持ちになってしまう1本だが特にひやひやする展開はなく、ずっと友達以上恋人未満、母親と息子のような、奇妙な関係性のまま物語が進行していく。女王にとってのアブドゥルは間違いなく日々の希望だったと思うが、難しいのはアブドゥルの真意が最後までよくわからないところ。アブドゥルは奥さんの存在を途中まで女王にも黙っていたし、インドと英国の関係性や女王に話す自分の出自も、嘘ではないけど真実ではないような曖昧な言葉を選ぶ。そもそも何故目を合せるなと言われていた女王の足に口づけをしたのか。彼が劇中で言うように本当に女王を慰めたかっただけなのか、それとも実際は彼も女王に気に入られたい野心家だったのか…最期に涙を流し、国に帰っても女王像に寄りそうのだから、単純な出世欲とは考えにくいけれど…ちょっと彼の心理描写が軽くてよく分からない印象。
その点、女王の可愛らしくも残酷なわがままは大変リアルに描かれていて良かった。アブドゥルの一言で大金が動き、周囲の人も結果的に振り回されてしまう恐ろしさを女王自身は気にも留めていない。孤独を埋めるように、寂しさをかき消すように、アブドゥルに惹かれていく女王は無邪気な少女のようで、そのギャップが素晴らしかった。ただ女王の描写が良い分、先述の通りアブドゥルの心理描写が薄いのでそこが勿体ない。史実はともかく映画の中だけでもそれらしい理由付けが欲しかった。テンポも良く飽きることなく楽しるけど、もっと深みが欲しかった。

 

 

『スカイスクレイパー』2018年/アメリカ

かつて任務中の事件に巻き込まれ、片足が義足となった元FBI制圧部隊長ウィル・ソーヤー
FBI時代の同僚に紹介され、香港に建築された超高層ビル”ザ・パール”のセキュリティ監査の仕事を引き受けることに。ウィルと妻のサラ、そして2人の子供達はザ・パールの98階で暮らすことになるが、徐々に事件に巻き込まれていき…

高所恐怖症の人にはおすすめしない超高層アクション映画。そんな私は高所恐怖症なので見始めてからだいぶ後悔。内容としてはとても面白かったです。
主人公ウィルを演じるのはお馴染みドゥエイン・ジョンソン。『セントラル・インテリジェンス』同様、監督のローソン・マーシャル・サーバーとタッグを組んだ作品なのだとか。とにかく高いところに登る登る…地上1千メートル級の高層ビルに飛び移る、頼りない紐一本で移動したり、狭い板を渡ったり、これでもかというくらい高いところの描写が多い。でも意外と一緒にハラハラしつつ楽しめちゃったりして。最新技術が詰め込まれた厄介なビルの中が舞台で、アクションや映像は見事。家族の為に燃え盛る高層ビルに身ひとつで飛び込んでいくウィルにも好感が持てます。肉体派のドゥェイン・ジョンソンが、片足を失ったウィルを演じることで良さが半減してしまうのでは?と思っていたのですが、蓋を開けてみると逆に「肉体だけではないんだぞ」とでも言うような素晴らしい演技でした。家族など登場人物にも好感が持てる。あとやっぱりガムテープ重要ですね、ガムテープ。アメリカ映画ではガムテープ大事。水漏れも義足の固定もテープでいけんねんな。
一方で「なんやねんこのビル」みたいな感じは否めませんね。なぜそんな所に配置した?みたいな設備満載。そもそもなぜ建てた、みたいな…笑
ウィルがビルのセキュリティのプロフェッショナルであるという描写が案外乏しい。アクション主体で全体的に説明不足というか、説得力に欠ける点は勿体ない。既存作に似てるという評価もあるようですが、私はダイ○ードあまり知らないので。あくまでもこの作品のみに対しての評価です。

 

 

『リチャード・ジュエル』2019年/アメリカ
クリント・イーストウッドの最新作。テイストとしては『ハドソン川の奇跡』や『15時17分、パリ行き』に近い。
全体的な緩急は少ないが、リチャードジュエルの不器用さがしっかりと描かれている。人一番正義感が強いが認められない、少し偏った不器用さ、弁護士の人間性が過去の回想のみで語られている印象で主人公のジュエルと弁護士の関係描写がやや薄い。個人的にはもう少しバディ感が垣間見えたら!と期待してしまうが、そこを削ぎ落としたヒューマンドラマが、この作品の良いところなのでしょう。音楽はやや地味で種類が少ないのが残念。マスコミの女性の身勝手さはよく描かれていましたね。自分勝手に記事を書き、注目を集め、彼が犯人でないと気づくも訂正記事を書くわけでもないという。…にも関わらず彼の母親の会見では涙している。しかしながら地味なので『グラン・トリノ』や『運び屋』のようなテイストを多少求めてしまうのだけど、観て良かったと思える佳作。

 

『アメリカン・スナイパー』2014年/アメリカ
戦争とはこういうものなのか。言葉で説明できるほど容易くはない心の動き、緊張、不安、危険、脅威。
あらゆる物がめまぐるしく現れては心の一部を掠め取って通り過ぎていくようで、見終えて気づいた時には心は元の形ではなくなっている。戦場に少しずつ色んな物を落としてきてしまったみたい。敢えて観ないで積んでいた作品だったけど、とにかく立ち止まり振り返る余裕もないまま、めまぐるしく時が過ぎて、気づけば形が変わっている。きっと主人公もそうだったんじゃないかな、そんな作品でした。

 

『インセプション』2010年/アメリカ
敢えて積んでいた作品。
非現実的な世界観にみせかけて設定がリアルで良かった。
余談だけど私は明晰夢を意図的に観ることができる。危険なので一定の年齢から意図的に観ることを辞めたけど今でもやろうと思えば可能だと思う。誰に教えられたわけでもないけれど実際に夢と現実を区別する術というのは存在するし、必要となるものなので、トーテム的なものも確かにあるし、私にもある。
作品の成り立ちは知らないが、実際に明晰夢や夢についてしっかり調べてシナリオ組まれているんだろうなぁ…と。
個人的にとても好きな作品でベスト1に選ぶかどうか迷った。はっ、今年渡辺謙の2強じゃん…
レオナルドディカプリオがとても好きです。タイタニックの頃よりもシャッターアイランド以降の方が味があっていいですね。

 

 

『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』心を抉られるような内容、多くの人に観て欲しい。しかしマメール達とキャリーの関係性を深めるような描写は少ないのが残念。
『I am ghost』クトゥルフ的な作品。死に光りはない、ただ消えるだけという聖書的な概念を覆した作品…と、捉えれば悪くないけど、ちょっと冗長ゆえ。
『らせん』年1で観てる気がしなくもないが、記者の吉野役って松重豊さんなんですね。今まで気づかなかった。
『ソーシャル・ネットワーク』FBの歴史に妙に詳しくなった。
『オンリー・ザ・ブレイブ』良作だけど映画作品としてはやや演出が淡泊である。そこが良くもあり悪くもある。
『名探偵ピカチュウ』ストーリーは少々大味だが随所にちりばめられたわくわく感が素晴らしい。しかしコダックは不安になる顔をしている。

『天使にラブソングを』『羊たちの沈黙』『ハンニバル』『アイアンマン』
『エヴァ新劇 序 破 Q』『ドラゴンボール超 ブロリー』『いぬやしき』『思い出のマーニー』
『来る』『トレイン・ミッション』『クワイエット・プレイス』『コンテイジョン』
『トランスワールド』『突入せよ!あさま山荘事件』等

ドラマ
『天皇の料理番』『お義父さんと呼ばせて』『アンナチュラル』
アニメ
『鬼滅の刃』『ARIA The AVVENIRE』

今年は結構見直しも多かった。久しぶりに邦画やドラマも多めにみた年かも。ふわっと気軽に流すのに良い。


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